Patent Bar Exam基本情報

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Patent Bar Examとは

日本では「パテントエージェント試験」と呼ばれることが多いようですが、アメリカでは一般に「Patent Bar Exam」と呼ばれることが多く、正式には「Examination for Registration to Practice in Patent Cases before the United States Patent and Trademark Office」です。特許出願の代理人としてUSPTOに対して手続を行うためには、原則としてこの試験に合格した上で、USPTOにPractitionerとして登録をしなければなりません。例外として、USPTOの審査官を4年以上経験していれば試験が免除となります。代理人として扱える法域(=試験範囲となる法域)は35 U.S.C.(合衆国法典第35巻)です。35 U.S.C. にはUtility Patent(日本の特許法相当)、Design Patent(日本の意匠法相当)、Plant Patent(日本の種苗法相当)が含まれます。パテントエージェントは日本の弁理士資格と似ていますが、日本の弁理士と異なるのは、Patent Bar Examに合格しただけでは商標が扱えない点と、審決取消訴訟や鑑定ができない点です。商標については、全米50州のどこかの州の弁護士資格をもっていれば扱うことができます。商標代理人になるための特別な試験はありません。審決取消訴訟(PTABの審決を取り消すためにCAFCに対して行う訴訟)や鑑定は法律行為となるために、弁護士資格が必須となります。
Patent Bar Examに合格し、USPTOに登録すればPatent Agentとなり、米国のどこかの州の弁護士会にも登録していればPatent Attorneyとなります。つまり、Patent Attorneyは弁護士資格とエージェント資格の2つを持っていることになり、特許・意匠・商標の全ての出願代理をすることができます。USPTOに登録されているPatent Practitionerのうち、約75%がPatent Attorney、約25%がPatent Agentです。
試験に関する公式情報は、USPTOのOED(Office of Enrollment and Discipline)が受験要項を公表しておりますので、そちらをご確認ください。

試験概要

コンピュータを使った多肢選択式(五択)試験で、午前3時間に50問、午後3時間に50問、合計6時間で100問に解答します。TOEIC等と同じように、うち10問は次回以降の試験の候補問題(正答率を調べて試験問題として適切かを判断するためのもの)であり、採点の対象外となりますが、どの問題が採点対象外であるかは受験者には知らされません。残り90問のうちの70%以上に正解すれば合格です。
試験はPrometricという試験センター(全米各地にあり)で随時行われております。Prometricでは他の試験も行われているので、隣の机の人は別の試験を受験していることもあり、試験の開始・終了時間も異なることがあります。試験に不合格であった場合には、30日間の待機期間を空けて再受験が可能です。したがって、センターの空き状況次第ですが、理論上は年に12回受験可能です。
試験終了と同時に採点がされ、その場で合否が判明します。但し、不適切な問題があった等により採点調整が入ったり、不正行為が判明したりして、事後的に合否が覆る場合も稀にあるようです。
USPTOから公表されている試験実績によれば、かなり合格率の高い時期もあったようですが、2013年以降は40%台に留まっております。これは、アメリカの資格試験の中でも低い方になります(参考:CPAは約50%、最難関試験とされるカリフォルニア州司法試験で約40%)。受験者からも難しいという話を聞きますが、実務未経験のロースクールの学生やエンジニアが準備不足のまま受験しており、ロースクールで法律を学んだ後に十分な準備をしてから受験する司法試験と同列には比較できないと思います。Patent Bar受験対策スクールで推奨されている必要勉強時間は300時間です。

費用

出願料が$110、受験料が$210、Prometric設備使用料が$182です(2023年4月時点)。出願時には出願料と受験料を支払い、受験許可が下りて試験の予約をする際に設備使用料を支払います。試験に不合格であっても、再出願をすることなく再受験をすることが可能ですが、受験料と設備使用料は試験毎に支払いが必要です。出願料は払い戻しされません(non-refundableです)が、書類審査の結果、受験不許可となった場合には受験料が払い戻されます。

受験資格

国籍・ビザ要件

アメリカ国籍所有者、アメリカ永住権所有者、アメリカに居住しており、かつ、アメリカで就労可能なビザを所有している外国人となります。居住及びビザ条件がある点で、日本人にとってはかなりハードルが高くなります。また、居住及びビザ条件はパテントエージェント登録後も維持している必要があり、米国外に居住するようになると資格が失効します(実際には、滞在許可証であるForm I-94の提出が受験時に必要であり、登録後は期限が延長されたI-94を提出することで更新が可能。更新日までに新しいI-94が提出されなければ自動的に登録抹消)。米国司法試験には居住及びビザ要件がないために、日本在住の方でも他の要件を満たせば受験も資格維持も可能ですが、この点においては米国パテントエージェントの方が難関となります。
また、ビザ申請時の就労業務の範囲に、USPTOに対して特許出願手続を行う(代理人、インハウス、又はトレーニーとして)ことが含まれている必要があります。このことは、受験要項に明記されております(Qualifying documentation would show that the USCIS has authorized the applicant to be employed or trained in the capacity of representing patent applicants before the USPTO by preparing and prosecuting their patent applications)。したがって、エンジニアやセールスとして就労するためにビザが発行されている場合には受験資格がありません。雇用主が「業務上、USPTOへの手続を行うことが必要になった」というサポートレターを発行すればよい、という説もありますが、その場合には本来は就労許可を取り直す必要があるので、USPTOの方はOKでも、USCIS(移民局)側で問題が生ずるのではないかという話もあります。したがって、ビザ取得又は更新のタイミングで、上記に対応するような一文(例えば、The beneficiary will represent patent applications before the USPTO (“United States Patent and Trademark Office”) by preparing and processing the patent applications upon obtaining the certificate to serve as a patent agent.)を予定業務範囲に入れておくのが安全と思われます。
明文の規定はありませんが、合格後に登録することを前提としておりますので、ビザの有効期限が6ヶ月未満の場合には受験許可が下りなかったという事例があるようです。Jビザで滞在が短期の場合には早めに願書を提出した方がいいです。
なお、一部の配偶者ビザ(Lビザ、Eビザの配偶者)は米国で就労可能であり、かつ、雇用主・職種が限定されておりませんので、こうした制約なく受験資格を得られます。

学歴要件
カテゴリーA

以下のいずれかの分野の学士、修士、博士(米国外の大学でも可)の学位を有していることが必要で、願書と一緒に英文の卒業(修了)証明書の提出します。
Biology、Biochemistry、Biological Science、Biophysics、Botany、Computer Science、Electronics Technology、Food Technology、General Chemistry、Genetics、Marine Technology、Materials Science、Microbiology、Molecular Biology、Neuroscience、Organic Chemistry、Pharmacology、Physics、Textile Technology、Aerospace Engineering、Aeronautical Engineering、Agricultural Engineering、Bioengineering、Biomedical Engineering、Ceramic Engineering、Chemical Engineering、Civil Engineering、Computer Engineering、Electrical Engineering、Electrochemical Engineering、Electronics Engineering、Engineering Physics、Environmental Engineering、General Engineering、Genetic Engineerin、Geological Engineering、Industrial Engineering、Marine Engineering、Materials Engineerin、Mechanical Engineering、Metallurgical Engineering、Mining Engineering、Nuclear Engineering、Petroleum Engineering、Textile Engineering
以前は学士のみが対象でしたが、2021年に修士及び博士にも対象が拡大され、同時に、対象となる分野も追加されました。しかし、例えば医学部、理学部数学科、理学部理学科ではカテゴリーAの受験資格は得られませんので次のカテゴリーBを検討する必要があります。また、日本の大学では、組織改編等により学科名が複雑になる傾向があり、そのまま訳したのでは上記のいずれにも当てはまらない場合もあるので要注意です。この場合には、自分の卒業した学科は上記の○○に相当するという説明と、英文の成績証明書を添付することが有効です。取得した単位の内容により、カテゴリーAの学位相当という認定がされたり、カテゴリーBに該当するとして受験許可が出されます。

カテゴリーB

カテゴリーAに該当する学位は持っていないが、大学・大学院において所定の分野において一定数以上の単位を取得していれば、審査により受験資格が得られる場合があります。例えば、物理学関連を24単位以上、化学関連を30単位以上、物理学もしくは化学を8単位以上と生物学を24単位以上、または物理学もしくは化学を8単位以上とその他工学を32単位以上、のいずれかが該当します。詳細はOEDの要項を参照して下さい。日本の理学部理学科卒のためにカテゴリーAに該当しなかったが、単位取得一覧を提出することでカテゴリーBで受験資格を得た方や、文系学部卒で、その後にオンラインでコンピュータサイエンスの単位を必要数取得してカテゴリーBで受験資格を得た方がいらっしゃいます。

出願手続

受験資格を証明する書類、願書、受験料をUSPTOのOEDに提出します。
受験資格を証明する書類のうち、国籍・ビザ要件に関しては、アメリカ国籍又は永住権保有者は提出不要で、願書にその旨を記載すればよいです。就労ビザで受験される方は、ビザ取得のために提出した書類一式を提出することになっております。但し、ページ数が膨大になることもあり、また、就労の目的上、Patent Bar Examを受験する必要があるか等について受験者を審査するための資料として提出するので、就労先企業に関連する資料等の附属書は提出しなくてもよいと思います。Eビザ及びLビザの配偶者ビザ(E2、L2)の場合、就労先の制限が無いので、この書類の提出は省略できると思います(念のためにOEDにお問い合わせ下さい)。さらにビザのコピー、I-94(出入国記録)のコピーです。就労ビザで受験される場合、Limited Recognitionとして期限付で登録がされますが、その有効期限が滞在許可期限までとなるためI-94の提出が求められます。なお、Eビザのようにビザ有効期限(通常5年)よりもI-94(入国毎に2年)で認められる滞在期限の方が短い場合もありますが、登録有効期限が近づいた時点で最新のI-94を提出すれば期限の更新は可能です。
学位の証明は、卒業大学から英文で発行された卒業証明書となります。カテゴリーBで受験される方は、単位を取得された大学等から発行された英文の成績証明書(transcript)を提出します。
願書は、USPTOのOEDが発行する要項に付いています。具体的な記入方法は要項に書かれております。特許出願を代理されている方であれば難しくは無いと思います。
受験料はチェック又はクレジットカードでの支払いとなります。出願料と受験料の合計額を支払います。Prometric設備使用料は、受験許可が下りた後に受験日を予約する際に支払います。クレジットカード払いの場合には、所定のフォームに必要事項を記入し、署名したものを同封します。何らかの理由で受験が不許可となった場合、受験料のみが返却されます。
上記の書類にカバーレター(任意ですが、あった方がいいと思います)を付け、OEDに郵送します。なお、数年前からオンラインによる願書提出も可能になりました(https://oedci.uspto.gov/OEDCI/practitionerhome.jsp)。

書類審査

USPTOのホームページでは、通常14営業日で書類審査がされることになっていますが、就労ビザでの受験者や米国外の大学卒の場合には、通常よりも審査に時間がかかる傾向があります。4週間待っても受験許可又は不許可の通知が来ない場合にはOEDに問い合わせをするように、となっております。一般的には、米国籍及び永住権保有者で10営業日、就労ビザ保有者で4~6週間で審査が終わり、受験許可通知が届きます。

受験日予約

USPTOの受験許可には受験番号が記載されております。これを使ってPrometricの予約サイトから予約を行います。受験希望地を選択すれば、その周辺の試験センターの一覧が表示されます。都市部であれば、近郊に複数のセンターが存在する場合もあります。希望するセンターの横のAvailabilityをクリックすれば予約可能な日時が表示されます。前述のように、同じセンターで複数の種類の試験が同時に行われるので意外に空きが少ないです。受験許可後3ヶ月(コロナ禍により6ヶ月に延長)以内に初回の受験を行う必要があるので、空きがない場合には周辺のセンターをチェックしましょう。また、予約がキャンセルされて空きが出る場合もありますので、希望の場所・希望の日での予約が取れなくても、毎日空き状況を確認していれば希望地で空きが出る場合もあります。なお、居住地周辺でなくても受験は可能ですので、Jビザ等で帰国日が決まっており帰国までに空きが見つからない場合には、他州まで探してみることも考慮に入れた方がいいです。

試験当日

試験センターに到着すると、入室前にIDとセキュリティチェックがあります。空港のセキュリティ並で、手持ち式の金属探知機で全身をスキャンされます。本人確認のために写真付IDが必要ですので、パスポートがアメリカの運転免許証を持参しましょう。室内に持ち込めるのはIDのみです。携帯電話を含む私物は、控室にある鍵付きロッカーに置きます。水筒等の持ち込みもできません。入室後、鉛筆とメモ用紙が渡されます。係員から受験用パソコンの説明がされ、準備が整ったことを確認したらテストの開始となります。ある時間になったらテストが開始するのではなく、自分で開始ボタンをクリックするとテストが開始となります。セキュリティチェックが混んでおり、受験開始予定時間を過ぎて入室したとしても、実際に画面上の開始ボタンを押すことで試験がスタートし、3時間のカウントが始まりますので、焦る必要はありません。パソコン上に残り時間が表示されるので、時計も必要ありません。途中でトイレに行くことはできますが、係員に告げて退室し、再入室前にIDとセキュリティチェックを受ける必要があるので、かなりの時間ロスとなります。
試験時間は3時間ですが、その前に終了させることもできます。午前と午後の間には1時間の休憩がありますが、試験終了と同時に1時間の休憩のカウントダウンが始まります。午後の開始時間に遅れた場合には、自動的に午後の部の3時間のタイマーがスタートします。1時間より前に戻ってきて、試験を早めにスタートさせることもできます。
1時間の昼休みというのは短いので、事前に試験センターの周辺をGoogle Map等で確認しておき、昼食を取れる場所を確認しておきましょう。すぐ近くにファーストフード店があれば、そこを使ってもいいですし、なければサンドイッチ等を持参するのがよいと思います。
午後の部が終了すると、テストセンターに関する簡単なアンケートに答えさせられ、それが終了すると採点結果が表示されます。70%以上なら合格で、退出時に係員から結果をプリントアウトされたものを渡されます(仮の合格証)。
その後1~2週間で、USPTOから正式な合格通知と登録に必要な書類が郵送されてきます。